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作成 2026-03-21

その男、歯を磨いていた。

KKato

オレンジフェリーでの実話をベースにした壮大なフィクション。

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瀬戸内海の夜は、静かだ。

大阪南港を出たオレンジフェリーは、愛媛・東予港に向けて暗い海を滑るように進んでいた。エンジンの低い振動が船体を通じて伝わり、それはまるで巨大な生き物の心臓の鼓動のようだった。

第一章 洗面所

男は、歯を磨いていた。

フェリーの大浴場を出て、洗面所に立ち、鏡に向かって歯ブラシを動かしていた。ただそれだけの、何でもない夜だった。

隣に、一人のおっちゃんがいた。同じように歯を磨いていた。二人の間に会話はなかった。フェリーの洗面所で隣り合った者同士、それが普通だ。

崩れ落ちたのは、その瞬間だった。

音もなく。前触れもなく。隣のおっちゃんが、まるで糸を切られた操り人形のように、崩れ落ちた。

第二章 反射

男の体は、考えるより先に動いていた。

隣の人に助けられ、男はおっちゃんを支えた。自分のロッカーを開けて、着替えさせようとした。

だが、男は危ないと思った。おっちゃんの様子がおかしい。歯磨きしながら、鏡越しに監視を続けた。

そして、それは起きた。

おっちゃんが男に背中を向けた。そのまま、真っ直ぐに、倒れてきた。

男は、すごい速さで振り向き、両手を広げて、受け止めた。

けれども、そのまま男も倒れてしまった。おっちゃんの頭が男の腹の上に乗っかっていた。

第三章 枕

おっちゃんは、頭を持ち上げた。

そしてまた、おろしてきて、男を枕にされた。

男がいなかったら、おっちゃんは頭を打って死ぬところだった。

男の腰は、痛かった。

腰痛

腰痛

場所・症状・発症パターンから疑われる原因を診断。ぎっくり腰から大動脈瘤まで。

第四章 SOS

風呂から出てきた中学生に、SOSボタンを押してもらった。

助けは、来なかった。

ひとまず立ち上がったら、おっちゃんは「大丈夫」と言うか。

倒れた。

また、倒れた。

二回目の後ろから抱きかかえ、そうこうしていたら職員さんが来たから、引き渡した。

第五章 英雄の代償

男は、えらいやつだ。男がいなかったら、危なかった。

でも、おっさんには、なーんもお礼言われんかった。

可哀想に。

腰は、少し痛い。

エピローグ

瀬戸内海の夜は、静かだ。

オレンジフェリーは何事もなかったかのように、愛媛へ向けて進み続けていた。

男は、腰をさすりながら、船室に戻った。

翌朝、愛媛の港に着いた時、男は少しだけ背筋を伸ばして歩いた。

誰にも気づかれない英雄は、そういうものだ。

オレンジフェリー

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オレンジフェリー
大阪南港〜東予港(愛媛)を結ぶ夜行フェリー。瀬戸内海を約8時間で横断する。大浴場付き。
  • 大阪南港 22:00発 → 東予港 翌6:00着
  • 東予港 21:00発 → 大阪南港 翌6:00着
  • 個室・相部屋あり。大浴場は乗船〜到着まで利用可能
  • 車両の積載も可能。四国旅行のアクセスに便利

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